引当金とは?公認会計士が定義と「なぜ計上が必要なのか」を解説

会計・税金

簿記を学習していて「引当金(ひきあてきん)」の理由を理解できなかった経験はありませんか?

「まだ現金を払っていないのに、費用にするの?」
「まだ損が確定していないのに、損失にするの?」

貸倒引当金や賞与引当金の仕訳を習ったとき、パターンも多くないのですぐに計算はできるようになる人は多いです。

ところが、理論になると直感的に理解しづらく、しっくりこない学習者は多いです。

引当金は、日常業務で使う情報というよりは、決算書を読む人にとって有用な情報なので、ニュースではまず見ることはないし馴染みがないでしょう。

ですが、引当金は損益の把握、早期警戒サインで、意思決定の精度が上がる有用な情報で会計の中では重宝される情報です。

簿記の試験の理論、あるいは実務では引当金を計上しなければならないかは、判断方法を理解していなければなりません。

この記事では公認会計士が教科書的な「定義」と「仕訳」にとどまらず、「なぜ計上が必要なのか(Why)」そして「具体的な当てはめ(How)」についてわかりやすく解説します。

ぜひ最後までお読みください。

まずは基本:教科書における「引当金」の定義と仕訳

まずは、引当金とは何か、その定義と基本的な仕訳を正確に押さえましょう。

引当金の定義

将来の特定の費用または損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積もることができる場合に計上される負債(または資産の控除項目)

…少し難しい表現ですね。

重要なのは、定義の中にある「4つの計上要件」です。

引当金の4つの計上要件

  1. 将来の特定の費用または損失であること
  2. 発生原因が当期以前にあること
  3. 発生の可能性が高いこと
  4. 金額を合理的に見積もることができること

これら4つすべて満たす場合は引当金として計上しなければなりません。
しなければならない(must)」です。

代表的な種類と仕訳の例

貸倒引当金(かしだおれひきあてきん)

将来、売掛金などが回収できなくなる(貸し倒れる)リスクに備えて計上します。

くだけて言うなら「売上代金が全額必ず回収できるとは限らない、どのくらい回収できなさそうか」ということです。

  • 決算時(計上)
    (借方)貸倒引当金繰入 ×× (貸方)貸倒引当金 ××
    (費用として計上し、資産のマイナスとして表示します)
  • 貸倒発生時(取崩)
    (借方)貸倒引当金 ×× (貸方)売掛金 ××
    (実際に貸し倒れたら、引当金を取り崩して売掛金を減らします)

期末に100万円の売掛金があり、過去3年間実績では貸倒(回収できなかった)実績が2%

→100万円 ✕ 2% = 2万円
これを貸倒引当金として計上。

賞与引当金(しょうよひきあてきん)

将来、従業員に支払うボーナス(賞与)に備えて計上します。

  • 決算時(計上):
    (借方)賞与引当金繰入 ×× (貸方)賞与引当金 ××
    (費用として計上し、負債として表示します)
  • 賞与支給時(取崩):
    (借方)賞与引当金 ×× (貸方)現金預金 ××
    (実際に支払ったら、引当金を取り崩します)

1月から6月まで継続して勤務することが要件の賞与で、総額6千万円。決算は3月末。

→6千万円 ✕ (3月 / 6ヶ月)= 3千万円
これを賞与引当金として計上。

税法では原則否認(費用として認められない)

税法の基本ルールに「債務確定主義」という考え方があります。

一言でまとめると期末までに、原因も金額も義務も固まっている支出だけが損金ということです。

引当金は会計より厳しく「法定引当+個別の特例以外は原則認めない」とされるので、会計ルールでは計上しなければならないのに、税法では申告書作成時に計上したものを取り消すという処理をします。

可能性が高い・ほぼ確実、であっても原則✕、費用として認められません。

なぜ計上が必要なのか(Why)

次に「なぜ、まだ払っていないのに費用にするの?」という疑問にお答えします。

引当金の計上が不可欠とされる理由は、大きく分けて以下の2点です。

理由1:適正な期間損益計算の実現(発生主義・費用収益対応)

会計の目的は、企業の一定期間(例えば1年間)の「正しい経営成績(利益)」を計算することです。

そのためには、現金の動きに関わらず、「収益を獲得するために発生した費用」は、その収益と同じ期間に計上しなければなりません(費用収益対応の原則)。

例えば、夏のボーナス(賞与)は、未来に支払われますが、その原因は「当期に従業員が働いたこと(収益への貢献)」。

支払いが未来であっても、費用の原因が当期にあるなら、当期の費用として認識しようというものです。

発生主義:「お金が動いた時」ではなく、「取引や義務が発生した時点」で収益・費用を記録する考え方

理由2:負債の忠実な表現(現在義務の可視化)

貸借対照表(B/S)の目的は、企業の「財政状態」を正しく表示することです。

将来、現金などを支払う可能性が高い「現在の義務」が存在するなら、それを「負債」としてB/Sに載せなければ、企業の本当の姿を隠すことになってしまいます。

例えば、売掛金(債権)を持った時点で、一定の割合で回収できないリスクが発生しています。

そのリスクを貸倒引当金としてB/Sに表示することで、投資家は「将来、このくらいの支払いがある、あるいは代金を回収できない」という情報を正しく受け取ることができます。

一言で言えば「起きた原因は当期まで、支払いは将来」というタイプの費用・損失を、当期の損益計算書と貸借対照表に前もって正しく割り当てるためです。

4要件への当てはめ(How)

では、実務では、どのように引当金を判断し、計上しているのでしょうか?

簿記の計算問題のように引当金の計上が確定しているということはありません。必要かどうかは毎期決算処理で検討しなければなりません

そのときは「この事象は引当金の4要件を満たすか?」で判断します。

判断のヒント(30秒で思い出す)

  • 原因は今・支払いは後か(発生主義)
  • 発生しそうか、発生しなさそうか(現在義務)
  • 見積根拠は説明可能か(監査対応・内部統制)
  • (難)収益認識の契約負債で処理すべきではないか(特に販促・返品まわり)

最後のはヒントにしては難しいのですが、雑に言えば売上を伸ばすためであったり、返品などで売上が減る性質のものなら引当金にはならないということです。
(売上と収益認識基準は別記事で解説します)

次に4要件へのあてはめをイメージしやすい「ボーナス(賞与)」を例に、見ていきましょう。

具体的な事例:賞与引当金の当てはめ

事例:

当社は、6月に従業員へ夏の賞与(ボーナス)を支給する規定がある。
当期の決算(3月末)時点で、次の夏のボーナス(対象期間:1月〜6月)はまだ支払っていない。
しかし、従業員はすでに当期(1月〜3月)も働いている。

この「将来払う夏のボーナスのうち、当期に働いた分」はどう処理すべきか?
計上は必要?不要?

4要件への当てはめプロセス

  1. 将来の特定の費用か?
    YES。夏のボーナス支給という特定の費用です。
  2. 発生原因は当期以前か?
    YES。夏のボーナスの対象期間(1月~6月)のうち、当期(1月~3月)の労働が原因となっています。
  3. 発生の可能性が高いか?
    YES。会社の就業規則や賃金規定に基づき、支給される可能性が高いです。
  4. 金額を合理的に見積もれるか?
    YES。過去の支給実績や、取締役会での決定額などから、当期負担分を(例えば月割で)合理的に計算可能です。
    (賞与は金額が大きいため通常は取締役会で決議されます)

結論:

4つの要件をすべて満たすため、夏のボーナスのうち当期負担分は「賞与引当金」として当期の費用・負債に計上しなければならない

よく使う引当金の種類と要点

引当金にはどのようなものがあるか、列挙します。

詳細な解説はせず概要のみです。ここだけ読んでも腹落ちまで理解は難しいので読み飛ばしてしまっても構いません。

引当金かどうかの判断に迷ったときの取っ掛かりなどにお使いください。

1)貸倒引当金

  • 趣旨:売掛金・貸付金の回収不能見込みを前倒しで費用化
  • 典型仕訳:期末に貸倒引当金繰入/貸倒引当金、償却時に貸倒引当金/売掛金
  • 計算:個別で計算、あるいは債権勘定科目で一括計算
  • 注意:税務の貸倒損失要件は別物(会計と一致しない)

2)賞与引当金

  • 趣旨:当期の労務提供分の将来ボーナスを費用化
  • 典型仕訳:期末賞与引当金繰入/賞与引当金、支給時賞与引当金/現預金
  • 計算:基本給×支給月数×達成率×在籍率
  • 注意:役員賞与は原則別論点

3)製品保証引当金

  • 趣旨:保証クレーム対応(無償修理・交換等)の将来支出見込み
  • 計算:販売数量×故障率×平均修理単価、リコールは別建て
  • 注意:保証内容が追加の履行義務なら収益認識の契約負債側で扱うケースあり引当金にならない

4)修繕引当金(大規模修繕など)

  • 趣旨:使用により不可避の将来修繕(計画保全)の負担を前倒し計上
  • 計算時に考慮するもの:耐用年数・周期・見積見積書
  • 注意:自社の裁量で後回し可能なら計上不可。資本的支出は固定資産で処理。

5)返品・値引関連(※収益認識基準の影響)

  • 今:引当金とすることはまず無い。原則は返金負債・返品資産や契約負債で処理
  • 昔:返品調整引当金などで処理することが多かった
  • 実務:まだ使用しているなら社内で勘定科目の更新・注記方針の整備を

6)クーポン・ポイント等の販売促進

  • 趣旨:将来提供する対価減少や追加サービスの見込み
  • 今の原則:多くは契約負債(履行義務)として処理。引当金としない
  • 注意:古い社内規程だと「引当金」名で残っていることがあるため要見直し

7)退職給付引当金

  • 趣旨:退職給付の将来負担(DB型等)を現時点で測定し計上
  • 計算時に考慮するもの:数理計算(割引率・退職率・給与上昇率)、年金資産の公正価値
  • 注意:他の引当金と違い、個別基準の厳格な測定・注記が必要。資格試験では計算理論ともに要習得

8)事業再構築・リストラ引当金

  • 趣旨:合理化・撤退で発生する解雇補償や契約解約違約金など
  • 計上条件:具体的な詳細計画の公表等で回避不能な現在義務が生じていること
  • 注意:漠然とした方針段階は不可。取締役会の決議や外部公表済など要件厳格

9)裁判・損害賠償等(損失引当金)

  • 趣旨:係争や事故等で高い蓋然性の支出が見込まれる場合
  • 計算時に考慮するもの:顧問弁護士見解、過去判例、確率加重平均
  • 注意:情報の機微性→注記範囲の判断(不利にならない配慮)。専門家と要相談

10)保険金等の受取見込みに関連するもの

  • 趣旨:支出見込みがある一方、保険回収見込みもある場合のネット表示の検討
  • 注意:保険回収は資産計上の対象だが、相殺の可否は慎重に(開示での整合)

番外:似て非なるもの

  • 資産除去債務:固定資産の解体・撤去等の将来費用を割引現在価値で負債計上(引当金“的”だが別基準)。
    実務では少額で重要性がなければ未払金に入れるケースもあり
  • 不利な契約からの負債:回避不能なコストが受け取る便益を上回る契約は負債計上(引当金に近い概念)

まとめ

今回は「引当金」について解説しました。

  • 引当金とは:「原因は当期、支払いは将来」の費用を、適正な期間損益と負債の表示のために計上する手続き
  • 引当金はどう計上する:4つの計上要件への正確な「当てはめ(判断)」と「合理的な見積もり」

簿記は計算がわかれば理論も理解しやすくなるので、まずは計算を学びましょう。

「引当金」の学習は基本的な仕訳(計算)ができれば6,7割はOKです。
(退職給付引当金を除く)

簿記の試験(特に上位級や理論問題)や実務では「なぜこのケースでは引当金が必要なのか(または不要なのか)」という、要件への当てはめが問われます。

引当金の要件は「この取引は4要件のどれに該当するのか?」を意識して計算問題を読んでいれば自然と身につきます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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