退職金には税金がかかりますが、根こそぎ税金がかかる制度ではありません(2024年は改正議論など雲行きが怪しいですが)。
退職金への税金は、給料にかかる税金よりも制度的に優遇されています。
当記事では退職金にかかる税金の仕組みについて解説します。
最後までお読みになり、ご自身の退職金の税金計算と受取方法の選択にお役立てください。
(解説する内容は、2024年11月時点の税法に基づいております。執筆時期以後の改正に必ずしも対応していません。ご了承ください)
退職金とは?
退職時に勤務先から支給される手当のことで、給与とは別枠の扱いがされるものです。
会社にとって退職金を支払うことは、長年の勤続に対する報償的な位置付けであるため、会社の退職金規定では連続して勤務したことが主な要件とされています。
退職金の金額は、
- 勤続年数
- 職位・職階
で定められていることが多い印象で、
2024年の退職金積立額 = 基準額 ✕ 倍率(職位・職階で決まる倍率)
といった式をよく見ます。
(職階と職位の違いは下記図参照)
項目 | 職階 | 職位 |
定義 | 職務の等級、難易度や責任のレベル | 組織内での役職や正式な肩書き |
評価基準 | 能力、責任範囲、役割の重さ | 組織図で明確化されたポジション |
例 | 「H,M,L」、「1等級,2等級」 | 課長、部長、リーダー |
年金の受取方法
退職金の受取方法は主に以下の2つです。
- 退職時に一回で受け取る
- 年金として受け取る
受け取る方法を選べるかは会社の退職金規定によるので、必ずしも従業員が指定できるとは限りません。
退職金は従業員の資産に関わることで、会社と従業員の間の約束ごとですから 、会社にあれば閲覧は可能でしょう。
退職後の生活設計もあるので、一度は読んでみることを勧めます。
退職金の一般的な性質
法律を含めた退職金の制度は、次の3つに位置付けられています。
- 勤続に対する功労に報いるため
- 賃金の後払い
- 老後の生活資金
現代では、終身雇用制度が一般的ではなくなり、独立や起業を選択する人も増えてきました。
その意味では、必ずしも上記3つが当てはまりませんが、これから解説する退職金に対する税法の考え方はこれらの性質を土台としています。
退職金にかかる税金の基本
まずは退職金にかかる税金の種類、税額計算の流れ、受け取り方による税金のかかり方の違いを解説していきましょう。
退職金にかかる税金の種類と税額計算の流れ
退職金に対して課される税金は、所得税と住民税の2種類です。
所得税も住民税も「所得金額」(税法の用語)を計算して、その「所得金額」に対して税率をかけて決定されます。
所得税と住民税の違いは税率が異なることです。
所得税は”累進課税方式”を採用していて、住民税は全国一律の税率が適用されます。
税額の具体的な計算方法は、この後で詳しく解説していきます。
受け取り方による税金のかかり方の違い
退職金の受け取り方は
- 退職時に一回で受け取る
- 年金として受け取る
の2通りあることは先程お伝えしました。
受け取り方の違いによって、税金のかかり方が変わります。
所得税・住民税には所得の”区分”があり、退職金は
- Aの受け取り方は「退職所得」の区分
- Bの受け取り方は「雑所得」の区分
で計算します。
Aの受け取り方の場合には、退職した年に一度課税されて、以後は課税されません。
Bの受け取り方の場合には、年金として受け取る毎に「雑所得」として課税されます。
以下は「A. 一括受取」と「B. 年金受取」の比較表です。
項目 | A. 一括受取 | B. 年金受取 |
課税区分 | 退職所得 | 雑所得 |
課税方式 | 分離課税 | 総合課税 |
課税タイミング | 退職した年に一度課税 | 年金受取時に毎年課税 |
税率 (所得税) | 累進課税方式 | 累進課税方式 |
税率 (住民税) | 一律税率 | 一律税率 |
課税対象 | 退職金全額 | 受取額の全額(年金として受け取る毎に) |
課税後の影響 | 以後は課税されない | 年金受取ごとに課税され続ける |
復興特別所得税について
復興特別所得税は、東日本大震災の復興財源を確保するために設けられた所得税の付加税です。
計算された所得税額(納付すべき金額)を計算した後に一定の税率をかけ、追加の所得税を納付するものになります。
具体的には以下です。
- 所得税に対して 2.1% の付加税が課されている
- 対象期間: 2013年(平成25年)から2037年(令和19年)までの25年間
次の章から退職金の計算方法を解説しますが、複雑化を避けるため復興特別所得税は除外しています。
退職金を一回で受け取る場合の計算方法
A.退職時に一回で受け取る場合、の所得税と住民税の計算方法を解説します。
「退職所得金額」を計算
計算の流れは、
①「退職金」の総額から「退職所得控除額」を差し引き、
②その「半分」を課税対象の「退職所得」とします。
計算式で表すと
退職所得金額 = (退職金 ー 退職所得控除額) ✕ 1/2
「退職所得控除額」は、勤続年数に応じて決まるもので以下の計算式で:
- 勤続20年以下の場合:
40万円 × 勤続年数(80万円が最低額) - 勤続20年を超える場合:
800万円 + 70万円 × (勤続年数 – 20年)
これで「退職所得金額」が計算されました。
「課税退職所得金額」
税率をかけるための金額を「課税◯◯金額」と呼び、「◯◯所得金額」を計算したあとに計算します。
「退職所得」では「退職所得金額」はそのまま「課税退職所得金額」となります。
これは所得税の計算の段階に合わせた呼び方なので、そんな段階があるのだなとご理解いただければ十分です。
計算はありません。
「退職所得」の税金の計算(所得税)
「課税退職所得金額」に税率をかけて計算します。
退職所得は分離課税ですので、給与所得や事業所得といった他の区分の所得の金額と合算せずに、累進税率を適用します。
給与所得や事業所得は合算して合計金額を基準に累進税率を適用する「総合課税」方式の適用です。
他の所得と合算しないので、同じ累進課税とはいえ、退職所得は基準額が低くなるという点で優遇されているのです。
令和6年分所得税の税額表(国税庁HP)から
A 課税所得金額 | B 税率 | C 控除額 |
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
求める税額 = A × B - C
Link
「退職所得」の税金の計算(住民税)
住民税は所得税と異なり一律10%の税率です。
ただし、所得税にあるような(令和6年分所得税の税額表の)”C 控除額”はありません。
住民税 = 課税退職所得金額 ✕ 10%
と計算します。
年金で受け取る場合の計算方法
B.年金として受け取る場合の所得税と住民税の計算方法を見ていきましょう。
税制上、この受取方法は所得税の「雑所得」に区分されます。
年金形式での受取となるため、毎年税金がかかるのが特徴です。
雑所得の計算方法(所得税・住民税)
- 課税対象額
退職金年金形式では、受け取った金額全額が課税対象の「雑所得」となる。
- 「総所得金額」を計算する
雑所得は総合課税方式なので、他の所得(給与所得や事業所得など)と合算して「総所得金額」を算出します。 - 累進課税による所得税の計算
「総所得金額」に対して、先程の表に示した累進税率を適用します。 - 住民税の計算
1)の「雑所得」の金額に住民税率の10%をかけたものが、退職金分の住民税額になります。
(注意:総合所得なので、他の所得区分がある場合には計算方法、結果は異なります。また退職年金以外の雑所得が無い前提です)
計算例
具体的な金額を用いて計算をみてみましょう。
A.退職時に一回で受け取る場合
計算例)勤続20年、退職金が1,000万円の場合
- 退職所得控除額
勤続20年の場合:
40万円 × 20年 = 800万円
- 退職所得
退職金の総額から退職所得控除額を引き、その半額が課税対象:
(1,000万円 – 800万円)× 1/2 = 100万円
- 所得税額
課税対象額100万円に対し、所得税の累進税率を適用します。
累進課税の税率表より、課税額100万円は以下の計算式で所得税が算出されます:
100万円 × 5%(税率) = 5万円
- 住民税額
課税対象額100万円に一律10%の住民税を適用します:
100万円 × 10% = 10万円
- 合計税額
所得税:5万円
住民税:10万円
合計税額:15万円
B.年金として受け取る場合
計算例)
- 退職金総額: 1,000万円
- 受取期間: 10年間(毎年均等に受け取る)
- 1年あたりの受取額: 1,000万円 ÷ 10年 = 100万円
- 課税区分: 雑所得(公的年金等以外)
- この年金以外の所得なし(国民年金や厚生年金なしという仮定)
- 課税対象額
退職金年金形式の場合、受け取った金額(100万円)全額が課税対象の「雑所得」となります。
- 所得税額の計算
課税対象額100万円に所得税の累進税率を適用:
所得税率: 5%(課税所得195万円以下の場合)
100万円 × 5% = 5万円 - 住民税額の計算
課税対象額100万円に一律10%の住民税を適用:
100万円 × 10% = 10万円
- 合計税額
所得税額: 5万円
住民税額: 10万円
合計税額: 15万円
この例はかなり強引な仮定をおいています。
実際には企業からの年金を受け取る人なら国民年金や厚生年金を受け取っています。
実際の計算をする場合には、例えば下記には注意して計算してください。
- 雑所得は総合課税で、他の所得と合算されて所得税率が決まる
- 「2)の所得税額の計算」の累進課税率が高くなる可能性がある
まとめ
退職金への課税は一般的な給与所得より優遇されており、主に2つの受取方法があります:
- 一括受取:
- 退職所得として課税
- 退職所得控除後の半額のみが課税対象
- 一度限りの課税
- 年金受取:
- 雑所得として毎年課税
- 受取額全額が課税対象
- 他の所得と合算して総合課税
どちらの受取方法を選択するかは、退職後の生活設計や他の収入源の有無を考慮して判断することが重要です。
なお、選択可能な受取方法は会社の退職金規定に従うため、事前に確認することをお勧めします。
関連情報・参考資料
国税庁HP:退職所得
当記事は以上となります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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