現在、企業のシステムは自社開発・運用だけでなく、クラウドサービスなど外部委託が一般的になっています。
そのため、システムの外部委託における内部統制の整備・運用が重要な課題となっています。
本記事は、IT全般統制(Information Technology General Control、以下「ITGC」)における外部委託管理についての解説記事です。
本記事は、企業の内部統制担当者はもちろん、ITシステム管理の受託業務を提供する企業の担当者にとっても、効果的な管理体制構築の指針となる内容です。
公認会計士としてITシステム監査の経験をもつ私が、外部委託管理の重要性と実践方法をわかりやすく解説します。
ぜひ最後までお読みください。
ITGCにおける外部委託管理の概要
外部委託管理とは、自社の業務を外部の専門会社に委託する際に、その業務の品質と安全性を確保するための管理の仕組みです。
外部に委託することで効率化できる一方で、さまざまなリスクも生まれます。
そのため、仕事の質を保ち、法律を守り、大切な情報を安全に扱うための管理の仕組みが必要になります。
つまり、外部委託管理は『他社に仕事を任せっぱなしにしない』ための重要な活動といえるでしょう。
ITGCにおける外部委託管理の位置づけ
IT全般統制(ITGC)は、企業全体におけるITシステムの信頼性を確保するために設けられた基本的な統制のことです。
アプリケーションやITシステムに共通する基盤的な統制で、組織全体のITインフラの信頼性を確保する役割と説明されるものです。
ITGCの評価にあたり、金融庁は以下の評価項目を例示列挙しています。
- システムの開発、保守
- システムの運用・管理
- 内外からのアクセス管理などのシステムの安全性の確保
- 外部委託に関する契約の管理
リンク:
財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査
このように外部委託管理はアクセス管理他と並ぶITGCの1項目として位置づけられています。
外部委託管理と内部統制の関連性
外部委託管理と内部統制の具体的な関連性を解説します。
- 内部統制の一環としての外部委託管理
外部委託先で行われる業務も、最終的には企業の成果や責任となります。
したがって、外部委託管理は内部統制の一環として重要であり、企業が内部統制を維持するためには、外部委託先でも同様の統制が適用されることが求められるのです。
- リスク管理と外部委託管理
外部委託管理は、リスク管理と深く関わっています。
内部統制の重要な要素であるリスク管理において、外部委託先に関するリスク(情報漏洩、品質低下、業務停止など)を識別・評価し、適切に対策を講じなくてはなりません。
- 業務の適正化と外部委託先のモニタリング
外部委託管理には、委託先が自社の期待する基準や法規制に従って業務を行っているかどうかをモニタリングする役割があります。
内部統制における業務の適正化と品質管理の観点からも、委託先のパフォーマンスを継続的に評価することが重要になります。
- コンプライアンスの確保
外部委託先でのコンプライアンス遵守も、内部統制の一部です。
企業が法令や業界規制を遵守するためには、外部委託先も同様にこれらのルールを守る必要があります。
- 責任と透明性の確保
内部統制は企業内外での責任と透明性を高めるための枠組みですが、外部委託先での業務も透明性を持たせなくてはなりません。
外部委託管理においては、契約内容に基づき外部委託先の業務範囲や責任を明確にすることが求められます。
外部委託管理におけるリスク
システムの利用やシステムの保守・運用など外部委託、サービスの利用方法はいくつもありますが、利用に伴うリスクはいくつかの種類に分類されます。
この章ではリスクの種類と、各リスクがもたらす具体的な影響を解説します。
リスクの種類
外部委託管理に関連するリスクは主に以下の6項目があげられます。
- データセキュリティリスク
- コンプライアンスリスク
- 業務継続リスク
- 品質リスク
- 契約管理リスク
- 技術的リスク
それぞれのリスクは以下のようなものです。
- データセキュリティリスク:
外部委託先がデータ保護に対する適切な対策を講じていない場合、データ漏洩や不正アクセスのリスクが高まります。
- コンプライアンスリスク
外部委託先が関連法規や規制に準拠していない場合、法的問題が発生する可能性があります。特にデータ保護法やプライバシー規制に対する遵守が重要です。
- 業務継続リスク
外部委託先が業務を継続できない状況(破産や災害等)が発生した場合、自社の業務にも大きな影響を及ぼす可能性があります。
- 品質リスク
外部委託先のサービス品質が期待に沿わない場合、自社の業務効率や顧客満足度に悪影響を及ぼす可能性があります。
- 契約管理リスク
契約内容が不明確な場合や、契約の履行状況を適切に監視できていない場合、トラブルや紛争のリスクが高まります。
- 技術的リスク
外部委託先が使用する技術やシステムが自社の環境と整合性がない場合、統合や運用に支障をきたす可能性があります。
次にリスクがもたらす具体的な影響やインシデント発生例を紹介します
リスクの影響
外部委託管理に関連するリスクが実際に発生すると、事業活動に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
ここでは、それぞれのリスクがもたらす具体的な影響と実際に起こった事例を紹介します。
- データセキュリティリスクの影響
外部委託先でのデータ保護が不十分な場合、機密情報や個人データが漏洩し、顧客の信頼を失うだけでなく、巨額の罰金や賠償金を支払うリスクがあります。
例えば、外部委託先が適切なアクセス制御を行っていない結果、内部の不正アクセスによって個人情報が漏洩し、企業イメージが大幅に悪化したケースがありました。
- コンプライアンスリスクの影響
外部委託先が規制に違反すると、法的措置や罰金が課される可能性があります。
特にGDPR(一般データ保護規則)やPIPA(個人情報保護法)に違反すると、厳しいペナルティが課せられることがあります。
例えば、外部委託先がデータ保護法の要件を満たしていなかったために、企業全体が法的な調査を受け、運営に支障を来した事例がありました。
- 業務継続リスクの影響
部委託先が経営破綻や自然災害などにより業務を継続できなくなった場合、自社の重要な業務プロセスも中断する可能性があります。
これにより、業務の停止や納期遅延が発生し、最終的には顧客からの信頼を損なうリスクがあります。
実際に、委託先のサーバーダウンが発生し、サービス提供が停止したことで、多額の損失を被った企業もありました。
- 品質リスクの影響
外部委託先のサービスが期待される品質基準に達していない場合、製品やサービスの不良が発生し、顧客からのクレームや返品が増えることがあります。
これは企業のブランドイメージに悪影響を与え、長期的な売上減少につながる可能性があるでしょう。
例えば、外部委託したシステム開発プロジェクトが品質基準を満たさなかった結果、システム障害が頻発し、ユーザーからの不満が噴出した事例がありました。
- 契約管理リスクの影響
契約内容が曖昧な場合、サービス範囲や責任範囲が不明確になり、紛争やトラブルが発生するリスクが高まります。
また、適切なモニタリングができていないと、契約通りのサービスが提供されているかを確認できず、潜在的な問題が放置されることになります。
例えば、契約書に具体的な納品基準が記載されていなかったため、納品物の品質を巡ってトラブルになった事例がありました。
- 技術的リスクの影響
外部委託先が自社システムとの互換性がない技術やツールを使用している場合、統合に失敗するリスクが高くなります。
これにより、システム全体のパフォーマンスが低下し、運用に支障を来すことがあります。
例えば、新しいシステムの導入時に外部委託先の技術が自社環境に適合せず、プロジェクトが大幅に遅延したケースがありました。
このように、外部委託管理に関連するリスクはさまざまな形で事業活動に影響を及ぼします。
リスクに対する適切な対策を講じることが、健全な業務運営と内部統制の維持に不可欠になるでしょう。
次章以降でリスクに対する具体的な内部統制を解説します。
ITGC外部委託管理統制の構築
この章では具体的なリスクに対応した内部統制の構築を解説します。
(”委託先選定の統制”はITGCではなく、IT全社統制あるいは全社統制に含める方が適切であるかもしれません。外部委託先管理で契約時の判断事項は関連しているため、ITGC内の記事として記載します)
委託先選定の統制の構築
委託先の選定は、外部委託管理における重要なステップであり、適切な統制を行うことでリスクを軽減し、企業の内部統制を強化できます。
ここでは、委託先選定時に行うべき統制の具体的な構築方法を解説します。
- 適切なリスクアセスメントの実施
委託先を選定する際には、事前にリスクアセスメントを実施し、各候補が抱えるリスクを特定・評価することが必要です。
リスクアセスメントでは、以下のような視点が考慮されます。
- データセキュリティとコンプライアンス:候補となる委託先が、自社の情報セキュリティ基準および関連法規(個人情報保護法やGDPRなど)を順守しているかどうか
- 業務継続能力:委託先の財務健全性や事業継続計画(BCP)がしっかり整備されているかを評価し、安定したサービス提供が可能か
- 技術的スキルと経験:委託先が必要なスキルや経験を備えているか、また自社システムとの互換性を持っているか
リスクアセスメントの結果を基に、各候補を比較し、リスクの観点から最適な委託先を選定します。
- 選定基準の明確化
委託先の選定プロセスでは、透明性と客観性を確保するために、評価基準を明確に設定することが重要です。
具体的には、以下のような基準が推奨されます:
- 価格だけでなく品質を重視:価格の安さだけでなく、セキュリティ対策や業務品質、サポート体制などを総合的に評価
- 審査プロセスの標準化:評価プロセスを標準化し、担当者ごとのばらつきを減らすことで、選定の一貫性と公正性を担保
- 第三者評価の活用:外部の評価機関や認証(ISO27001、SOC2など)を参照し、客観的に選定基準を補完する
外部の評価や認証は委託先の内部統制の評価を実施した結果によって発行されます。
間接的ですが委託先の内部統制の有効性を確かめる方法となるでしょう。
- デューデリジェンスの実施
委託先候補の最終選定にあたっては、デューデリジェンスを行い、委託先の信頼性と実績を確認します。
デューデリジェンスのポイントとしては以下の項目が挙げられます:
- 過去の実績と評判:過去のプロジェクトや取引先のレビューを確認し、委託先の信頼性を評価
- セキュリティ認証や規格準拠:ISO27001やSOC2などの認証を保持している場合、それにより一定のセキュリティ基準が確保されているか
- 人的資源と技術基盤:実際に委託業務を行う担当者や技術基盤についても確認し、信頼できるリソースがあるかどうか
デューデリジェンスは会社のシステムの基幹部分を担うような場合には実施を前提に検討すべきでしょう。
業務で重要であるが、1アプリケーションの利用のためのような場合にはコストに見合わないため実施しないこともあります。
- 契約書における選定基準の明文化
選定後、選定基準に基づいて契約書に具体的な要件を盛り込むことも重要です。
例えば、
- セキュリティ要件
- 業務品質
- サービスレベル目標(SLA)
などを契約書に記載することで、契約後の管理・監督がスムーズになります。
また、契約に基づく監査権限やモニタリング義務を明確にし、委託先のパフォーマンスが期待通りでない場合の対応策を講じることが望まれます。
委託先の”モニタリング”、”報告書の受領”あるいは”報告会の実施”は契約締結後の外部委託先管理では必須の統制ですので、契約または覚書へ忘れずに盛り込むようにしましょう。
委託先の継続管理の統制の構築
委託先との契約を締結した後も、継続的な管理を行うことで外部委託先が期待通りのパフォーマンスを発揮し、リスクを最小限に抑えることにつながります。
以下に、継続的な管理を行う際の主なポイントと具体的な方法を解説します。
- 定期的なモニタリング
委託先のパフォーマンスやセキュリティ状況を確認するために、定期的なモニタリングが必要です。
モニタリングの方法としては、以下のアプローチが有効です。
- パフォーマンス評価:
サービスレベル目標(SLA)に基づき、委託先のパフォーマンスを定期的に評価します。
評価内容には、対応速度、問題解決率、障害発生頻度などが含まれます。 - セキュリティ監視:
外部委託先がセキュリティ基準を満たしているかを確認するために、セキュリティ監査を実施する、もしくは定期的な報告を受けることが推奨されます。
特にデータ保護やアクセス管理に関する確認を行うことで、リスクを低減できます。
- 定期的な報告の受領と評価
契約段階で報告書の提供を義務付けておき、委託先から定期的に活動状況の報告を受領することも重要です。
報告内容としては、以下の項目が考えられます。
- サービスの実績報告:
SLAの達成状況、対応件数、問題解決の内訳など、サービス提供の実績を確認し、改善が必要な項目を把握します。
- セキュリティ状況の報告:
情報漏洩の防止策やアクセス制御の実施状況、監視システムの運用状況についても報告を受け、基準に準じた運用がなされているかを評価します。
これらの報告内容を評価し、必要に応じて委託先に改善を求めることで、継続的なリスク軽減が可能です。
- 定期的なレビュー会の実施
継続的な外部委託先管理の一環として、定期的にレビュー会を実施し、委託先と直接コミュニケーションを取ることも効果的です。
レビュー会では、以下のような事項を確認します。
- パフォーマンスと課題のレビュー:
委託先が契約内容を遵守し、業務の質が維持されているかを確認します。
また、課題や改善点についても議論し、今後の改善アクションを明確にします。 - リスク対応策の共有:
新たに発生したリスクや外部環境の変化に応じて、リスク対応策を見直し、委託先との間で共有します。
定期的なレビュー会は、委託先との信頼関係を築き、迅速な対応を促すとともに、潜在的な問題を早期に発見し、リスクを未然に防ぐための効果的な手段です。
- 内部監査の実施
委託先のパフォーマンスやリスク管理状況が適切に維持されているかを確認するために、内部監査を定期的に実施することも重要です。
内部監査では、以下の点に焦点を当てます。
- 契約遵守状況の確認:
委託先が契約内容を順守し、SLAやセキュリティ基準を満たしているかを確認します。 - リスク管理状況の評価:
委託先がリスクアセスメントに基づく管理策を実施しているか、また新たなリスクに適切に対応しているかを評価します。
内部監査の結果に基づき、委託先に改善を促すと同時に、内部統制の枠組みを強化することで、外部委託管理の信頼性をさらに向上させることが可能です。
- 緊急対応計画の確認とテスト
外部委託先が突発的な問題に対応できるよう、緊急対応計画(Incident Response Plan)の確認と定期的なテストを実施します。
特に、データ漏洩やシステム障害が発生した際に迅速に対応できるよう、以下のポイントに注意します。
- 対応手順の明確化:
緊急時の対応手順や連絡体制を委託先と事前に共有し、必要なアクションを明確にしておきます。 - 緊急対応訓練の実施:
年に一度など定期的に訓練を行い、緊急対応計画が実際に機能するかを確認します。
このように、緊急時にも委託先が適切に対応できることを確保することで、リスクを最小限に抑え、迅速な問題解決が可能となります。
これらの継続管理手法を取り入れることで、外部委託先との信頼関係を強化し、リスクを未然に防ぐと同時に、内部統制の健全性を保つことが可能です。
外部委託先に上記のすべての項目を適用・要求する必要はありません。
費用対効果と委託しているシステムに関するリスクの重要度といった指標で判断することになります。
外部委託管理統制の運用ポイント
外部委託先は頻繁に変更することはなく、契約を結んだら数年は継続して委託することになります。
このため、継続的なモニタリングによる評価が重要になります。
外部委託先のモニタリングは
- 報告書の受領
- 報告会の実施
- 委託先の外部監査人の評価報告書の受領
が主に整備・運用すべき統制になります。
委託先からの報告書の受領
「報告書の受領」は「報告会の実施」における資料として作成し提出されるのが一般的です。
報告書の受領は、委託しているシステムが会社の基幹部分を担うものであれば毎月受領するのが一般的です。
内部統制では、報告書の入手、内容のチェック(必要に応じて追加対応)、責任者の承認までが一連の統制となります。
統制頻度は”月次とすることが推奨されます。
報告書に記載される事項は、例えば以下になります。
- 運用実績の報告
- システム稼働状況(稼働率、ダウンタイムの詳細)
- 処理件数・処理量の実績
- バッチ処理の実行結果と所要時間
- リソース使用状況(CPU、メモリ、ストレージ等)
- 応答時間のパフォーマンス指標
- インシデント・問題管理
- 発生したインシデントの一覧と詳細
- 問題の根本原因分析結果
- 解決までの対応時間
- 未解決案件の状況と対応計画
- 再発防止策の実施状況
- セキュリティ管理
- セキュリティインシデントの報告
- 不正アクセスの試行検知状況
- マルウェア検知状況
- セキュリティパッチの適用状況
- アクセス権限の変更履歴
- 変更管理
- 実施した変更の一覧と影響度
- 変更による障害の有無
- 次期変更計画の概要
- テスト結果の要約
- 緊急変更の発生状況
- バックアップ・リカバリ
- バックアップの実施状況
- リストア試験の実施結果
- データ保管状況の確認結果
- 災害対策訓練の実施状況
- キャパシティ管理
- リソースの使用傾向分析
- キャパシティの予測と計画
- パフォーマンスのボトルネック分析
- 増強計画の提案
- コンプライアンス
- 法令・規制要件への準拠状況
- 内部統制に関する評価結果
- 監査指摘事項への対応状況
- ライセンス管理状況
- 改善活動
- サービス品質向上施策の実施状況
- プロセス改善の取り組み
- ユーザー満足度調査結果
- 次期改善計画
- 要員管理
- 担当要員の稼働状況
- スキル管理・教育訓練の実施状況
- 要員の交代・異動予定
- バックアップ要員の確保状況
- コスト管理
- サービス提供コストの実績
- 追加費用の発生状況と理由
- コスト削減施策の効果
- 次期予算見通し
報告項目は、委託業務の内容や重要度に応じて取捨選択し、報告の頻度(日次/週次/月次/四半期など)を適切に設定することが推奨されます。
報告会の実施
報告会では報告書の内容に基づいた質疑を行い、議事録を作成します。
合意事項や議事録の拘束性は会社と委託先で相談し決める必要がありますが、硬直的な位置付けにならないようにすべきでしょう。
内部統制のために行うべきことは、
- 議事録の作成
- 課題と期限の設定
です。
そして当たり前のことで恐縮ですが、会議の場では
- 目標・方向性
- 目標に対してとるべきアクション
- 期限
これらに合意することが目的になります。
議事録はその合意を書き記し、次のアクションのための支援とするものです。
内部統制の観点からも、具体的な検討事項が議事録として残されていることで、形骸化したモニタリングでないと主張する証跡として機能します。
問題事項・課題がなく議事録が薄い内容でも、実際に開発計画や重大な障害が無いのであれば、監査人は特に指摘はしません。
委託先の外部監査人の評価報告書の受領
最近では受託業務を生業としている会社は外部監査人に内部統制の評価を依頼し、その報告書を内部統制の有効性の証明として委託会社に提出する方法をとることが増えています。
例えばAWSでは最新の報告書をだれでも閲覧・入手可能です。
(興味がある方は「AWS SOCレポート」で検索してみてください)
会社が外部委託先の内部統制を直接評価することはコストと外部委託先の負担を考えると現実的ではないのでこのような方法がとられます。
経験上、会社の監査人が外部委託先の監査を実施することはありましたが非常に稀なケースでした。
その外部委託先も、外部監査人にSOC2レポートの発行を依頼し、SOC2レポートを委託している会社へ提出することで内部統制の評価にする方法に変更していました。
(SOC2レポート:独立した監査人が、セキュリティ、可用性、処理の整合性、機密性、プライバシーといった非財務的な要素に関する統制を評価した結果の報告書)
ここではSOCレポート他の内部統制の評価結果を利用する際の詳細な解説は省かせてもらいます。
委託先の外部監査人の評価報告書の扱いで注意すべきなのは、「評価期間」です。
財務諸表監査や内部統制の評価では、ある一定期間を評価対象にしています。
委託先が提出してきた外部監査人の評価報告書の評価期間と会社の内部統制の評価期間が一致していないことはよくあります。
必要な評価の範囲外の期間があれば、委託先会社を通して委託先会社の外部監査人に対して「評価書が継続して利用可能であること」の回答書などを依頼し、受領しなければなりません。
監査人の立場からは、「評価報告書の評価期間」と「監査の評価対象期間」が一致していないことは、その一致していない期間は内部統制の評価ができない、できていないと結論付けなければなりません。
これは監査人にとって、致命的な監査の失敗に繋がるおそれがあります。
「評価期間」の違いには十分注意して、
- 監査人と相談すること
- 委託先を通して委託先の外部監査人に回答をもらえるよう働きかけること
のなどで対応してください。
運用上の課題と解決策
外部委託管理統制の運用においては、継続的なモニタリングと評価が求められますが、運用段階で特有の課題も生じやすいです。
ここでは、代表的な課題と、それに対する実務的な解決策を提示します。
- コミュニケーション不足によるトラブル
- 課題:外部委託先とのコミュニケーション不足が原因で、サービスの品質低下や契約内容の誤解が生じ、トラブルの要因となることがある。
特に、定期的な報告や確認がない場合、外部委託先の業務状況や課題を把握できず、問題の発見が遅れる可能性がある。 - 解決策:
- 定期的なミーティングやレビュー会の設定:委託先と定期的にミーティングやレビュー会を実施し、業務状況の報告や課題の共有を行う。
- コミュニケーション体制の整備:連絡体制や情報共有の方法を明確にし、トラブルが発生した際に迅速に対応できるようにする。
- エスカレーションルートの設定:緊急対応や課題が発生した場合のエスカレーションルートを事前に設定し、迅速な問題解決を可能にする。
- 定期的なミーティングやレビュー会の設定:委託先と定期的にミーティングやレビュー会を実施し、業務状況の報告や課題の共有を行う。
- モニタリング体制の不十分さ
- 課題:モニタリング体制が不十分な場合、委託先のパフォーマンスやセキュリティ状況の変化に気づけず、リスクを見過ごす可能性がある。
特に、モニタリングの頻度が適切でない場合や、基準が曖昧な場合に問題が生じやすい。 - 解決策:
- KPI(重要業績評価指標)の設定:委託先のパフォーマンスやセキュリティ基準に関するKPIを明確に設定し、達成度合いを定量的に評価する。
- モニタリング頻度の見直し:業務内容やリスクの高低に応じてモニタリングの頻度を設定し、継続的に評価できるよう体制を整備する。
- 第三者監査の活用:モニタリングに課題がある場合は、第三者による監査やセキュリティ評価を定期的に受けることで、客観的な評価を補完する。
- KPI(重要業績評価指標)の設定:委託先のパフォーマンスやセキュリティ基準に関するKPIを明確に設定し、達成度合いを定量的に評価する。
- 契約内容の不明確さ
- 課題:契約書の内容が曖昧な場合、サービス品質や対応責任が明確でないため、委託先との間で誤解が生じやすくなる。
また、契約に基づいたモニタリングや評価ができず、トラブル対応が難航することがある。 - 解決策:
- 契約内容の見直しと具体化:契約書にサービスレベル目標(SLA)、セキュリティ要件、報告頻度、監査権限などを具体的に盛り込むことで、運用時の基準を明確にする。
- 契約更新時の見直し:契約更新の際に業務内容やリスクに応じた項目を追加・修正し、最新の状況に合致した契約内容に更新する。
- 関係者の理解促進:契約内容について、委託先担当者および自社の関係者が共通の理解を持てるよう、契約時に重要事項を確認し合う。
- 契約内容の見直しと具体化:契約書にサービスレベル目標(SLA)、セキュリティ要件、報告頻度、監査権限などを具体的に盛り込むことで、運用時の基準を明確にする。
- リソース不足によるモニタリングの限界
- 課題:外部委託先の業務量や監視項目が多くなると、リソースが不足してモニタリングが不十分になるリスクがある。
特に、監視対象の範囲が広い場合や複数の委託先を管理している場合、リソース不足が課題となりやすい。 - 解決策:
- 優先順位の設定:重要度やリスクの高い業務を優先的にモニタリングすることで、限られたリソースを効率的に活用する。
- ツールの導入による自動化:モニタリング業務に関する自動化ツールを導入し、パフォーマンス評価や報告作成を効率化する。
- 業務委託や外部リソースの活用:モニタリング体制に外部リソースを活用することで、リソース不足の解消を図る。
- 優先順位の設定:重要度やリスクの高い業務を優先的にモニタリングすることで、限られたリソースを効率的に活用する。
- 委託先のセキュリティ意識の低下
- 課題:委託先のセキュリティ意識が低下すると、データ漏洩や不正アクセスのリスクが高まる。
特に、セキュリティ対策が十分でない場合、委託先が脆弱な点となる可能性がある。 - 解決策:
- セキュリティ教育の実施:委託先に対して定期的にセキュリティ教育を提供し、最新のリスクと対策を共有する。
- セキュリティ監査の実施:委託先に対して定期的なセキュリティ監査を実施し、セキュリティ基準が維持されているかを確かめる。
- セキュリティガイドラインの提供:委託先に守るべきセキュリティガイドラインを提供し、適切な管理体制が維持されるよう支援する。
- セキュリティ教育の実施:委託先に対して定期的にセキュリティ教育を提供し、最新のリスクと対策を共有する。
- リスクの再評価が行われない
- 課題:運用開始後、委託先や業務内容が変化してもリスクの再評価が行われないと、潜在的なリスクが見過ごされる可能性がある。
これにより、業務継続や品質、安全性に悪影響を及ぼす可能性が高まる。 - 解決策:
- 定期的なリスク評価の実施:委託先のリスク評価を定期的に実施し、必要に応じて管理策を見直す。
- 業務変更時の再評価:委託業務の変更や委託先の組織変化が発生した際に、迅速にリスクの再評価を行い、新たなリスクに対処する。
- リスク評価の記録と追跡:リスク評価結果を文書化し、改善策の実施状況を追跡することで、リスク管理を強化する。
- 定期的なリスク評価の実施:委託先のリスク評価を定期的に実施し、必要に応じて管理策を見直す。
これらの課題と解決策を実施することで、外部委託管理の運用における問題を未然に防ぎ、継続的な品質維持やリスク軽減を図ることができます。
まとめ
ITGCにおける外部委託管理は、クラウドサービスの普及により、その重要性が増しています。
効果的な外部委託管理の実現には、以下の3つの観点が重要です。
- リスク管理
システムの外部委託に伴う主要なリスク(セキュリティ、コンプライアンス、業務継続性など)を適切に評価・対応することが求められます。
- 統制の構築
委託先の選定から契約、モニタリングまでの一連のプロセスについて、明確な基準と手順を定める必要があります。
- 継続的な運用管理
定期的な報告とレビュー、パフォーマンス評価を通じて、委託先との良好な関係を維持しながら、適切な管理を継続することが重要です。
これらの要素を適切に組み合わせ、委託先の重要度に応じた管理体制を構築することで、外部委託に伴うリスクを最小限に抑えることができます。
当記事は以上となります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
記事を読んだ感想、質問、疑問点あるいはご指摘事項がありましたら質問フォームにご記載ください。
可能な限りご回答させていただきます。
コメント