なぜ暗号資産の税率は高いのか?税法から見る課題と改善案

暗号資産で利益を得ると、高額の税金がかかるという話を聞いたことはありませんか?

暗号資産は株や債券と似ているから税率は20%程度ではないのか。

そんな税の疑問に対して、税法側の視点から公認会計士である私が解説します。

ぜひ最後までお読みいただき、暗号資産の税率が高い理由、税法の考え方の理解に役立ててください。

(本記事は2024年10月時点の情報をもとに執筆しております。

また本記事では、暗号資産に関する現行の税制について、税法の基本原則をもとに筆者の見解を述べています。

ここで示す解釈や意見は、公認会計士としての知見に基づくものですが、あくまで私見であり、税務当局の公式見解ではありません)

暗号資産と税法

ここでは税法のなかで暗号資産がどのような扱いなのか、税率はどうなっているのかを解説します。

暗号資産の定義と特徴

日本の税法における暗号資産の定義は、資金決済に関する法律第2条第14項に規定されています。

具体的には以下のような5つの特徴を持つものとされています。

  1. 電子的に記録された財産的価値

コンピューターやインターネット上で記録・管理される経済的な価値

  1. 決済手段としての機能

現金の代わりに商品やサービスの支払いに使用できる

  1. 不特定の者に対する譲渡可能性

特定の相手に限らず、誰にでも自由に譲渡(売却や贈与)できる

  1. 電子情報処理組織を用いて移転可能

インターネットなどのデジタル技術を使って、所有者を変更したり送金したりできる

  1. 法定通貨との交換可能性

政府が発行する公式な通貨(円やドルなど)と交換できる

これらの特徴を満たすものが、税法上で暗号資産として扱われます。

ビットコインやイーサリアムなどの主要な暗号資産は、この定義に該当します。

e-Gov法令検索のウェブサイト(資金決済に関する法律)

e-Gov 法令検索
電子政府の総合窓口(e-Gov)。法令(憲法・法律・政令・勅令・府省令・規則)の内容を検索して提供します。

日本の税制のなかでの暗号資産の取り扱い

日本の所得税法では暗号資産の取引による利益は原則「雑所得」の区分で扱われています。

国税庁:暗号資産等に関する税務上の取扱い及び計算書について(令和5年12月)

暗号資産等に関する税務上の取扱い及び計算書について(令和5年12月)|国税庁

暗号資産は「雑所得」の区分で利益が計算され、総合課税しか選択肢が無く他の所得区分、例えば給与所得などと合算されます。

そして所得税の総合課税は累進課税であるため、利益が大きくなればなるほど高い税率が適用されるのです。

国税庁のHPから、総合課税における累進課税率表は次の表のようになります。

稼げば稼ぐほど税率が高くなっているのがわかります。

累進課税率表【「課税される所得金額に対する所得税の金額」】

課税される所得金額税率控除額
1,000円 から 1,949,000円まで5%0円
1,950,000円 から 3,299,000円まで10%97,500円
3,300,000円 から 6,949,000円まで20%427,500円
6,950,000円 から 8,999,000円まで23%636,000円
9,000,000円 から 17,999,000円まで33%1,536,000円
18,000,000円 から 39,999,000円まで40%2,796,000円
40,000,000円 以上45%4,796,000円

国税庁:所得税の税率

No.2260 所得税の税率|国税庁

これに対して株式譲渡による利益は「譲渡所得」の区分で申告分離課税が適用可能で、独自の税率が適用されます。

売買による利益は同じですが、株式は一定の税率がかかるのに対し(所得税、住民税合わせて20%少々)、暗号資産は利益に応じて増加します。

”控除額”を度外視して計算すると、例えば売却益が1億円あったとすれば、

  • 暗号資産への税率は45%(上表から)+住民税5%の50%、5,000万円の税金
  • 株式への税率は15%(申告分離課税の税率)+住民税5%の20%で2,000万円の税金

(復興特別所得税ほかのため、上記の%は正確ではありません)

暗号資産への投資をやめたくなるほどの差がでることはご理解いただけるでしょう。

暗号資産と株式の違い

暗号資産は日本の法律上の言葉で、法定通貨や株式と同様に「資産」として扱われています。

ところが、法定通貨や株式とは異なる特殊な「資産」という位置づけにされています。

特殊とされる理由はいくつかありますが、ここでは価値の視点から「価値変動の性質」と「投機的性質」が異なることを解説します。

価値変動の性質

暗号資産はそれ自体が価値を持っているわけではなく、相対的に価値があるとみられています。

円やドルといった法定通貨は、発行主体である国がその価値を法令や実際の流通を整備することで保証しています。

また、株式であれば発行主体の株式会社の純資産に相当する価値は担保されている、という前提があります。

法定通貨も株式等の有価証券も、相場があって取引価値は変動しているのはご承知のとおりでしょう。

しかし、暗号資産の価値は、発行主体が相場によらない一定の価値を担保しているわけではありません(そういった仕組みを取り入れている暗号資産もあります)。

法定通貨や外貨との相対的な関係により認識される価値とみなされているからです。

投機的性質

多くの場合、暗号資産取引は投機的な目的で行われ、短期的な売買が多いという特徴があります。

株式の売買目的は、売買することによる利益の獲得、配当による利益目的である、というのが一般的です。

会社は成長することを前提として、株式は価値が上昇するため、保有し続けることで資産価値が増加するものとしてみなされています。

もちろん相場が下がる株式、会社などの発行主体が倒産して価値が無くなる株式もあります。

短期や長期で売却することは暗号資産も可能で同じですが、現在までの暗号資産の変遷を全体的にみれば、暗号資産は長期で価値を生み出すものは多くありません。

暗号資産の取引目的は投機的である、とみなされているのです。

改善案とその改善案の課題

暗号資産を取り扱う団体が提案している改善案と私の意見をいくつか紹介します。

申告分離課税の適用対象とする

所得税内での扱いを変える要望では、株式やFXの扱いと同じようにするという以下の2つの提案がよく見られます。

  • 株式と同じように所得税の区分を「譲渡所得」として扱う
  • FXと同じように「雑所得」の中で特別な扱いとする

私も暗号資産の取引を行ったことがありますが、株式やFXと同様にネット、アプリ上で暗号資産の種類、数、金額を入力して取引しました。

暗号資産の性質上、現実世界で物々交換はありませんし、取引履歴は電子データで必ず残ります。

現在の株式やFXの取引形態とほとんど同じといえます。

ですので、上記の2案が解決策として妥当でしょう。

ただし、この2案には解決しなければならない問題があります。

利益計算が難しく、どのように整備するかという問題です。

暗号資産の売買は頻繁に行う人も多く、場合によってはプログラムを組んで自動で売買して利益をあげている人もいます。

日本国内で政府の認可を受けて運営している取引所で取引している場合には、利益計算を取引所の運営業者が高い精度と一定の方法で行うので、客観性と信頼性のある利益計算をしてくれます。

この計算結果を根拠として確定申告の利益額とすれば税額計算を間違えることも少なくなるでしょう。

ところが、暗号資産の取引は海外の取引所を利用して行うことが可能であり、そのような場合は海外の取引所が利益計算をしてくれているとは限りません。

また、法定通貨への換算もしなければならず、円基準で取引しているとは限らないので計算はさらに複雑になります。

そして、確定申告の際に利益額の根拠として計算結果を提出することになるので、計算が正しいのかを検証する税務署の手間が大きいことは想像にかたくありません。

「課税の公平」という税法の原則があり、いい加減な計算で算出した税額を認めては公平性が保てないということから認められないのです。

一定の計算ルール、様式を決めるという対応策も考えられますが、暗号資産は自由に作成できる現状と、自由さが最大の売りであるため、相性の悪さがあります。

とはいえ、現状維持で雑所得の扱いで課税する、では日本で暗号資産を使ってイノベーションを創造する、世界を先導するなどとは夢ではなくともハードルが高すぎます。

最低でも特例扱いをして税率を下げるのが良い解決策でしょう。

暗号資産同士の取引を非課税にする

暗号資産は異なる暗号資産との交換をすることが多々あります。このため下記の提案もよくみかけます。

  • 暗号資産同士の交換時には課税せず、法定通貨に交換した時点でまとめて課税対象とする

この案の背景は、暗号資産の取引には下記のような取引形態があります。

  • 法定通貨で暗号資産を取引する:一般の売買と同様
  • 暗号資産同士を交換する:物々交換
  • 暗号資産を担保に、他の暗号資産を入手あるいは借りる:特殊取引(信用取引ほか)

このうちの2つ目と3つ目の取引形態は、「自分の持っている暗号資産が他の暗号資産に変わる」=「取引をした」とみなされやすいものです。

そして、取引をする毎に利益計算をして税金がかけられるとすると、取引ごとに利益が削られて、暗号資産の運用がやりにくくなる問題があります。

イメージは少々雑ですが、電車の乗り換え毎に乗り継ぎ料金ではなく、改めて初乗り料金がかかるととらえてください。

このため、暗号資産同士の交換時への課税は避けたいという要望があるのです。

ただし、この提案の実現は難しいでしょう。そう考える理由を解説します。

  1. 暗号資産同士の取引を非課税にすることが難しい理由

理由は以下の2点です。

  • 税法では、資産の種類や状況に応じて、客観的かつ合理的な方法で算定された価額を資産価値として採用すること
  • 暗号資産は取引時点でその価値が決まること

「課税の公平」という税法の原則があり、資産の価値は多くの人が納得できるものでなければならないとされています。

そのため、例えばスマートフォンのような、買ったあとはその価格が上がることがめったにない資産は買った時の価格が採用されます。

暗号資産は上述した「暗号資産と株式の違い」の中で記載したことですが、取引によってその価値が決まります。

このため、税法は暗号資産同士の取引であっても、取引される暗号資産を時価換算して、利益か損失かを算定しなさい、と言ってくるのです。

公平な価値を使うことと、暗号資産は取引時に価値を持つもの、という税法の原則と暗号資産の性質から法定通貨への換金時ではなく取引時に課税しなければならなくなります。

また、交換時に課税しなければ、租税回避、脱税といった抜け穴にされるのは容易に想像がついてしまいます。

  1. 具体例

例えば「ある暗号資産を持っていれば、施設の利用が可能でその施設では宿泊、飲食が可能である」とされれば法定通貨への換金は行われないことになります。

そうすれば税金を納めること無く、価値のあるサービスを受け取る権利を受けている状態になります。

暗号資産ですから一瞬で無価値になるリスクがあるとはいえ、無価値になる前に転々と暗号資産を動かす回避策もあり、公平とは言えません。

この場合、施設の利用の価値を算出して課税すればいいという方法も考えられますが、個人が一個一個その特典を確定申告させる、税務署はそれを確かめる、となりこれは現実的ではありません。

暗号資産同士の交換時に課税しないという要望は実現が難しい、深く議論するまえに却下されるか、深く議論してもよい解決策が見つけられないのではないでしょうか

その他の改善案

その他は認可制にする、例えば下記のような案が考えられます。

  • 上場企業が運営する取引所で行われた取引は特別な税率を適用できる

日本では取引所の運営会社は金融庁の監督下にあり規制を受けています。

規制をいくつかあげると

  • 資本金1,000万円以上で純資産がマイナスではない
  • 第一種金融商品取引業者の登録が必要
  • 情報セキュリティ対策を講じること
  • 内部管理体制を構築すること

リンク:金融庁  監督指針・事務ガイドライン 暗号資産交換業者関係

第三分冊:金融会社関係:金融庁

取引所はこれらの規制を遵守する他にも、自主的に監査法人の監査を受け財務状況や内部統制が機能していることを担保しています。

こうした規制があることで、投資家保護もある程度配慮がされていることにもなります。

このように、暗号資産の投資家保護や経営の健全性を保つ努力を継続している会社が運営する取引所であるなら、特別な税率の適用もありえるのではないでしょうか。

暗号資産の取引が投機的であることに変わりはありませんが、暗号資産が技術として有用であり、発展するよう政策的な意図で税の優遇をすることは積極的にしてほしいところです。

海外の取引所を利用している場合の扱いが残りますが、例えば規制のゆるい国に本社を置く会社で外部監査も受けていない取引所も認めるべきというのは難しいでしょう。

暗号資産の発行事業体に対して同様の規制を導入することは、暗号資産を発行することは自由にできるといった暗号資産の機動性と相反していて現実的ではありません。

取引所による規制が落とし所の1つではないでしょうか。

おわりに

本記事では、税法の基本原則を踏まえつつ、暗号資産の課税に関する私見を述べてきました。

これらの解釈や提案は、現行の税制度に対する一つの見方であり、今後の法改正や社会の変化によって変わる可能性があります。

暗号資産の技術はもっと活用されてもいい技術です。

確かに、暗号資産には反社会的勢力の資金源、規制の抜け道、粗製濫造、詐欺行為、錬金術ともてはやしてお金を集めて逃亡など問題が多いのは事実です。

それでも世界で活用が検討されている技術で、税法によって活性化を後押ししてもよいのではないでしょうか。

暗号資産の税法での待遇の改善を期待したいところです。

当記事は以上になります。

最後までお読みいただきありがとうございました。

記事を読んだ感想、質問、疑問点あるいはご指摘事項がありましたら質問フォームにご記載ください。

可能な限りご回答させていただきます。

コメント