「減価償却」がわかりにくい本当の理由とは?会計士が実務で学んだ「基本」と「3つの現実」

会計・税金

なぜ「減価償却」は、こんなに分かりにくいのか?

簿記学習で「減価償却」が出てくると、急に難しく感じませんか?
筆記用具は買ったときに費用になるのに、パソコンや車は、数年間で費用にしなくてはならない。

その原因は、簿記で習う「会計ルール」と、実務(特に中小企業)で重要な「税金計算(税務)のルール」という、2つの異なるルールを区別して考える必要があるからです。

私自身、会計士受験生時代、この2つのルールの違いで何度も点を落としました。

わかりにくいにも関わらず、減価償却は簿記の試験頻出論点であり、実務でも税金計算がからむ以上無視することはできません。

ですが、私は勉強を続ける中で、この分かりにくい減価償却も、核となる「基本」と「判断根拠」さえ押さえれば、確実に理解できることに気づきました。
それをマスターしたことで、試験では得点源にでき、実務でも落ち着いて対応できるようになったのです。

この記事では、教科書的な基本の解説に加え、私が実務で経験した「Excelでの手動計算の地獄」や「実務のリアルな混乱」といった実例も紹介し「なぜこの学習が必要か」を解説します。

まずは基本:教科書的な「減価償却」とは?

まず、基本の「会計ルール」をおさらいします。

減価償却の概念(What)

減価償却とは、パソコンや車、建物などの「1年を超えて長期間使用する資産(固定資産)」の購入費用を、購入した年に全額費用にするのではなく、使える年数(耐用年数)にわたって分割して費用計上する会計処理です。

減価償却の目的(Why)

なぜ、こんな面倒な処理をするのでしょうか?

第1に、「会社の本当の儲け(損益)」を正確に計算するためです。
もし、1000万円の機械を買った年に全額費用にしたら、その年だけ大赤字になり、翌年からは(費用がゼロなので)大黒字になってしまいます。これでは、毎年の正確な損益が分かりません。

機械を買った、買っていないだけで赤字黒字になるのは会社の実態ではありませんよね。

第2に、「資産を使った」という実態を決算書に反映させるためです。
機械や車は、1年で使い終わるものではありません。使用し続けることによって価値が劣化(減価)していきます。減価償却は、「資産を使った分だけ、分割して費用にする」ことで、この「実態」を会計処理に反映させるために必要なルールです。

計算(How):定額法と定率法

分割計算の主な方法が「定額法」と「定率法」です。

定額法:「定まった額」を毎年償却する方法。

(例)100万円の資産(耐用年数5年)なら、毎年20万円ずつ費用にします。

定率法:「定まった率」で償却する方法。

資産の「まだ償却していない金額(未償却残高)」に一定の率をかけます。

(例)100万円の資産(償却率20%)なら、

  • 1年目は20万円
  • 2年目は(100-20)×20%=16万円

…と、最初の年の費用が大きく、だんだん減っていくのが特徴です。

基本用語

減価償却費を計算するときに、必ず必要になる数値の用語です。

取得価額:資産の購入代金+付随費用(手数料など)。

耐用年数:理論上は「その資産が使用できると見積もられる期間」を指します。ただし実務では、申告書作成時に税法用に修正することが手間なので税法が定める「法定耐用年数」を使用することが一般的です。

残存価額:耐用年数が終わった時の「資産の価値」。現在は「備忘価額(1円)」まで償却するのが一般的です。

混乱する「税務上の特例」

「基本」は教科書(会計ルール)の話です。しかし実務(特に中小企業)の現場は、ここからが本番です。

実務では、「税金計算(税務)のルール」が非常に重視されます。(国税庁が公式にいっているわけではありませんが)税務上は「計算を簡便にする」「中小企業の負担を減らす」等の理由で、3つの特例が用意されています。

特例1:少額減価償却資産(10万円未満)

取得価額が10万円未満の資産は、減価償却(分割)せず、購入した年に全額を費用として処理できます。(例:筆記用具、事務机など)

特例2:一括償却資産(10万円以上20万円未満)

取得価額が10万円以上20万円未満の資産は、「定額法」などの面倒な計算をせず、「3年間で均等に分割」して費用にする、という簡便な方法が選べます。

特例3:中小企業者の特例(10万円以上30万円未満)

資本金1億円以下の中小企業は、取得価額が10万円以上30万円未満の資産について、購入した年に全額を費用として処理できます。(※ただし年間300万円まで)

学習者が混乱するのは、「基本(2章)」のルールと、これらの「例外(税務特例)」をどう使うかで混乱するからです。

実務では、まず「基本」のルールで全資産を管理し、その上で「例外(特例)」を適用できるかを判断します。

この「基本」と「例外」の区別こそが、減価償却をマスターするための判断根拠であり、学習段階で「基本(2章)」を徹底的に理解する必要があるのは、このためです。

教科書では学べない、実務の「3つの現実」

私が監査や再生支援の現場で見たのは、教科書には載っていない「人間の泥臭い管理」と「専門家の判断」の連続でした。

実務の「現実」を3つ紹介します。

現実1:「Excel地獄」が教える「管理」の重要性

私は過去、中小企業の再生支援(業績が悪化した企業の立て直し)を行っていました。

この時、会社の「本当の利益」を計算するため、止まっていた減価償却費を自前で計算し直す必要がありました。

私はExcelでその計算式を作成したのですが、

一個一個の資産で「取得価額」「耐用年数」をチェックし、

「月割り計算」を反映させ、

償却が終わる間際の資産の「計算方法の切り替え」に対応し、

何より「過去の決算書の帳簿価額」との整合性を取るという調整作業に追われました。

Excelのエラー、資産数の多さ、整合性のために何度もやり直し…正直、地獄でしたね。会計ソフトのありがたみ・ソフト開発者への尊敬の念が浮かんだことを覚えています。

”エラーの発見”も”エラーの修正”も減価償却という会計ルールの知識があればこそ対応できました。

ですが、この経験が「減価償却はなぜこんなに難しいのか、そしてなぜ試験の頻出論点なのか」を、私が実体験として骨身に染みて理解した瞬間でした。

現実2:「インプット」が全て。「判断」の重要性

実務では、資産を購入した「入り口」の処理を間違えると、その後の計算がすべて狂ってしまいます。

私は受験時代、所得税の申告補助のアルバイトをしていました。

その時、車を購入した方がおり、私は「リサイクル預託金」という費用を見落としそうになりました。

「リサイクル預託金」は、法律で定められた廃車時の費用ですが、会計処理上は「車の購入費用(取得価額)」に含めてはいけません。

「預託金(長期前払費用など)」として、別に資産計上しなければならないのです。

他の方のチェックがあり間違えずに済みましたが、申告書の記載ミスになりかけヒヤッとしました。

減価償却という一つの処理にも、最初のインプット(入力)段階で、「これは資産か?費用か?別の資産か?」という、人間の「判断」が不可欠であることを強く意識させられました。

現実3:「計算」はできても、「説明」が難しい

減価償却費は、資産の取得価額から1円を引いた金額が上限です。
つまり、“同じ資産で減価償却費を永続的に計上することはできない”のです。

ところが、経営者の中にはこれを誤解して「良い節税テクニックだ」と思い込んでいる方もいるそうです。

私が受験時代の税法の講師(税理士)が、ある経営者からこう言われた、という逸話があります。

「先生、減価償却ってずっと同じ金額を費用にできるものなんじゃないんですか?」

これを聞いて、「こういった誤解を「納得」してもらう税理士業務は大変だ」としみじみと感じました。

会計実務では、「計算」が正しいのは当たり前です。計算の正確性は会計ソフトを使えば担保できます。

その計算結果が「何を意味するのか」「将来の税金(キャッシュフロー)にどう影響するか」を、相手に「説明」し「納得」してもらうことこそが、専門家の仕事なのです。

結論:なぜ、「減価償却」を学ぶのか?

「Excel地獄(=泥臭い管理)」「リサイクル預託金(=インプットの判断)」「経営者の誤解(=説明の難しさ)」

これらはすべて、教科書には載っていない「実務の現実」です。

簿記学習者の皆さんが今学んでいる「定額法」「定率法」「耐用年数」といった知識は、単なる「計算ルール」の暗記ではありません。

それは、将来、実務の現場でこの「現実」に直面したとき、

  1. 複雑な資産を正しく「管理」し、
  2. 会計ルールと税務ルールを正しく「判断」し、
  3. その結果を経営者や上司に正しく「説明」できるための、「基礎」そのものだからです。

計算は会計ソフトが自動でやってくれる時代です。ですが、そのソフトに「何を」「どのように」インプットすべきか「判断」できなければ、ソフトが出した計算結果を鵜呑みにするしかありません。

減価償却の「基本」を学ぶことは、与えられた結果を鵜呑みにせず、正しいのか・利用できるのかという、最も重要な「判断力」を養うことなのです。

まとめ

今回は、公認会計士の「実務のリアル」な視点から、「減価償却」の分かりにくさの本質について解説しました。

分かりにくい理由:「会計ルール(基本)」と「税務ルール(例外)」の2つを区別する必要があるから。

つまずきポイント:10万/20万/30万といった「税務特例」が、学習と実務の「つまずきポイント(=判断根拠)」である。

実務の「現実」:教科書の「計算」の先には、実務でしか学べない「管理」「判断」「説明」という3つの壁がある。

つまり、簿記学習で求められるのは、単なる「計算能力」ではありません。「なぜこの処理が必要か(基本)」を理解し、「どのルールを使うべきか(例外)」を判断する力です。

記事で紹介した私の実体験(現実)は、すべてこの「基本」と「判断」の応用です。
受験者には得点にならない話もありますが、減価償却を幅広くイメージする材料につかっていただければ幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

当事務所のブログでは、今後も「実務と学習の翻訳家」として、簿記学習者が本当に知りたい「現場のリアル」と「学習のコツ」を繋ぐ情報を発信していきます。

「自分の勉強法は、本当に実務で通用するんだろうか?」「会計士のリアルな仕事や、実務の失敗談をもっと知りたい」

もし、そのような疑問やご相談がありましたら、ぜひ一度「無料相談」でお気軽にお声がけください。

コメント